小山ゼミAグループでは、メンバーの主体性が集団浅慮に与える影響について研究しました。
そもそも集団浅慮とは、団結力の強い上層部集団のメンバーに見られる傾向であり、集団の和を保とうとするメンバーの強い願望を背に、議論の不一致や不和の元となるものは一切退けようとする状態です(Janis ,1982)。つまり、「特定の人物の意見がそのままグループの意見になってしまう状態」といえます。Janis(1982)によると、集団浅慮を回避するためには「リーダーの配慮」が必要ですが、私達は、リーダーの配慮だけでなく、「メンバーの主体性」も必要なのではないかと考えました。よって、「メンバーの主体性が集団浅慮に与える影響」というテーマで研究をしました。
本研究では、Aグループのメンバーが所属するサークル、アルバイト先等を対象に、アンケート調査を実施しました。具体的には、学生テニスサークル、ファミリーレストラン、居酒屋、学生広告サークル、インカレサークルの5つの組織から、計80人の方々に答えていただきました。ありがとうございました。
アンケートの質問は、「集団浅慮が起きているかどうか」、「リーダーの配慮」、「メンバーの主体性」の3つを調査するために設定されたものです。
そのアンケートを集計したところ、「集団浅慮起きているかどうか」について、インカレサークルが他の組織より集団浅慮の度合いが低い傾向にあることがわかりました。「リーダーの配慮」について、居酒屋、インカレサークルが他の組織よりも平均値が高い傾向にあることがわかりました。「メンバーの主体性」について、全ての組織の平均値が高かったのですが、特に居酒屋、インカレサークルが他の組織よりも高い傾向にあることがわかりました。
アンケートから得られた結果から考えられることは、テーマの「メンバーの主体性が集団浅慮に与える影響」について、メンバーの主体性が集団浅慮に影響を与える、とは言い切れないことです。
その理由について、まず、インカレサークルは、「リーダーの配慮が高く、メンバーの主体性が高く、集団浅慮の度合いが低い傾向にある組織」です。しかし、集団浅慮の度合いが低い組織がインカレサークルのみなので、度合いの低い組織同士での比較ができません。「リーダーの配慮が高く、メンバーの主体性が低く、集団浅慮の度合いが低い傾向にある組織」があれば、インカレサークルと比較することで、メンバーの主体性が高くなければ集団浅慮の度合いが高くなる、ということが明らかになっていました。
よって、集団浅慮の度合いの低い組織同士での比較ができないため、インカレサークルの集団浅慮の度合いが低い原因が「リーダーの配慮」なのか、「メンバーの主体性」なのか、「リーダーの配慮とメンバーの主体性の両方」なのかが特定できないのです。
また、この研究により新たな疑問も浮かびました。調査前は、集団浅慮という「特定の人物の意見がそのままグループの意見になってしまう状態」は、良い影響をもたらさないと考えていたのですが、必ずしもそうとは限らないのではないか、という考えが新たに生まれました。学生テニスサークル、ファミリーレストラン、居酒屋、学生サークルの4つの組織は集団浅慮の度合いが比較的高いという結果が出たにも関わらず、各組織についての話を聞くとそれぞれがしっかりと運営をされているし、メンバー自身の主体性も高いです。「特定の人物の意見がそのままグループの意見になってしまう状態」が悪い影響を及ぼす場合と、良い影響をもたらす場合、この2つを主軸に、今後の研究に努めたいと思います。
改めて、研究に協力していただいた皆様、本当にありがとうございました!
小山ゼミBグループでは、上司の言動が部下のワーク・エンゲイジメントに与える影響について研究しました。
ワーク・エンゲイジメントとは、仕事に関するポジティブで充実した心理状態(Shaufeli, Salanova, González, and Bakker,2002)のことです。今回の調査では、ユトレヒト・ワーク・エンゲイジメント尺度 日本語・短縮版(Shimazu, Schaufeli, Kosugi,Suzuki, Nashiwa, Kato, Sakamoto, Irimajiri, Amano, Hirohata, and Goto, 2008)を使用しました。具体的な質問項目は、「仕事をしていると、活力がみなぎるように感じる」「職場では、元気が出て精力的になるように感じる」「仕事に熱心である」などです。このようなことをよく感じる人ほど、ワーク・エンゲイジメントが高いということになります。
そして、状況に応じた上司の言動を知るために、「部下の仕事が順調な時の上司の言動」と「部下の仕事が不調な時の上司の言動」の2つに状況を分けて、「上司の言動」と「部下のワーク・エンゲイジメントの高さ」の関係性を調査しました。
アンケートは「職場コミュニケーションと働く意識の調査」としてwebで行いました。調査期間は2016年8月9日~9月25日で、調査対象は「大卒で働き始め、現在社会人経験が3~7年目の皆さま」です。したがって今回の調査では、上司の言動は部下の認知によって測定しました。アンケートには70人の方が答えてくださりました。アンケートにご協力いただいた方々、ありがとうございました。
調査の結果、上司の言動は、部下のワーク・エンゲイジメントに影響を与えるということが分かりました。ただし、上司の言動によって、ワーク・エンゲイジメントは高まることもあれば、低くなることもあるようです。
●部下の仕事が順調な時、上司の言動とワーク・エンゲイジメントの関係性
部下のワークエンゲージメントと有意な正の相関があった上司の言動は、「基本のやり方を示したら、あとは私(部下)の自主性に任せる」「私(部下)の努力を認める」「私(部下)の努力を褒める」「私(部下)の仕事の出来を認める」でした。つまり、これらの上司の言動は、部下のワーク・エンゲイジメントを高めると考えられます。
一方、部下のワークエンゲイジメントと有意な負の相関があった上司の言動は、「仕事について、事細かに教える」でした。事細かな指導をする上司は、部下のワーク・エンゲイジメントを下げてしまうと考えられます。
●部下の仕事が不調な時、上司の言動とワーク・エンゲイジメントの関係性
部下のワーク・エンゲイジメントと有意な正の相関があった上司の言動は、「感情的に怒る」でした。これは、予想とは異なる結果で意外でした。しかしこれは、感情的に怒られることで、部下が委縮して仕事に埋没せざるを得ない状況を作り出している可能性が考えられます。したがって、これは見せかけのワーク・エンゲイジメントと言えるかもしれません。
一方、部下のワーク・エンゲイジメントと有意な負の相関があった上司の言動は、「私(部下)の仕事の出来を認める」でした。不調時に仕事の出来を認めるということは、不調な状況を認めることであり、そのことがワーク・エンゲイジメントを低下させることにつながると考えられます。
このように、上司の言動は部下のワーク・エンゲイジメントに影響を与えることが分かりました。しかし、したがって、今回の研究では、部下の不調時にワーク・エンゲイジメントを向上させる効果のある上司の言動を見つけ出すことはできませんでした。今後は、上司の言動について様々な項目を調査に含めて研究していく必要があると思っています。
改めて、アンケートにご協力いただいた方々、本当にありがとうございました。