小山ゼミ 2022年度3年グループA(秋田力、大竹彩音、小枝かのん、櫻井真子)
本稿はゼミ論文の概要を簡潔にまとめた「サマリー」である。
1.問題意識
現在、女性のキャリア形成の在り方は様々なところで議論されています。海外と比べた場合に雇用における男女格差が大きいという背景から、2016年4月に女性活躍推進法が施行されました。現状として、日本では女性の活躍を推進する活動の一つである女性の管理職比率を増やすことに取り組んでいます。政府は女性管理職比率30%という目標を掲げていますが、実際には2021年時点で課長相当職12.4%、部長相当職7.7%であり1割前後という状況です。女性の管理職が少ない原因、昇進を望まない主な理由として「仕事と家庭の両立が困難になる」「責任が重くなる」「周りに同性の管理職がいない」ということがあげられています。また、働いていた女性が仕事を辞めたり転職した理由の半数以上が結婚・出産という調査結果もあります。
これらの問題意識から、本研究では「未婚女性社員の昇進意欲を高める要因」を明らかにしていきます。また、働いている女性の価値観や意識を明らかにすることは、これから社会人になる学生がライフスタイルやキャリアを考えていくうえでも非常に参考になると考えました。
2.仮説
未婚の女性社員が昇進を望まない理由として「責任が重くなる」「仕事と家庭の両立が困難になる」「周りに同性の管理職がいない」などがあげられました。そのため、結婚や育児への積極的な意識は昇進意欲を低下させると考えました。一方で、周りに女性管理職のロールモデルがいれば昇進意欲は高くなると考えました。そこで、以下の12個の仮説を立てました。
- 仮説1a:将来、結婚をしたくなければ、昇進意欲が高い
- 仮説1b:結婚を考えていても、働き続け、キャリアアップしたいと思っていれば、昇進意欲が高い
- 仮説1c:結婚を考えていても、働き続け、仕事にやりがいを持ちたいと思っていれば、昇進意欲が高い
- 仮説1d:結婚を考えていても、働き続け、経済的な自立の道を持ちたいと思っていれば、昇進意欲が高い
- 仮説1e:結婚を考えていても、プライベートを重視したいと思っていなければ、昇進意欲が高い
- 仮説2a:将来、子育てをしたくなければ、昇進意欲が高い
- 仮説3a:結婚を考えていても、家事を夫と分担したいと思っていれば、昇進意欲が高い
- 仮説3b:子育てを考えていても、育児を夫と分担したいと思っていれば、昇進意欲が高い
- 仮説4a:女性管理職からキャリア形成のアドバイスをもらうことがあれば、昇進意欲が高い
- 仮説4b:女性管理職のロールモデルが身近にいれば、昇進意欲が高い
- 仮説4c:勤務先の女性社員比率が高ければ、昇進意欲が高い
- 仮説4d:勤務先の女性管理職比率が高ければ、昇進意欲が高い
3.調査計画
本研究の調査対象者は、WEBリサーチ会社のモニター会員であり、(1)女性、(2)22歳から29歳、(3)未婚、(4)子どもがいない、(5)非管理職、という条件にすべて当てはまる方としました。Googleフォームでアンケートを作成したうえで、2023年1月に回答してもらいました。259人から回答を頂き、有効回答数は244人でした。
4.結果
仮説検証のために、従属変数を「昇進意欲」として重回帰分析を実施したところ、以下の3つの仮説が支持されました。しかし、それ以外の仮説(1a,1c,1d,1e,2a,3a,3d,4c,4d)は支持されないという結果になりました。
<支持された仮説>
- 仮説1b:結婚を考えていても、働き続け、キャリアアップしたいと思っていれば、昇進意欲が高い
- 仮説4a:女性管理職からキャリア形成のアドバイスをもらうことがあれば、昇進意欲が高い
- 仮説4b:女性管理職のロールモデルが身近にいれば、昇進意欲が高い
<支持されなかった仮説>
- 仮説1a:将来、結婚をしたくなければ、昇進意欲が高い
- 仮説1c:結婚を考えていても、働き続け、仕事にやりがいを持ちたいと思っていれば、昇進意欲が高い
- 仮説1d:結婚を考えていても、働き続け、経済的な自立の道を持ちたいと思っていれば、昇進意欲が高い
- 仮説1e:結婚を考えていても、プライベートを重視したいと思っていなければ、昇進意欲が高い
- 仮説2a:将来、子育てをしたくなければ、昇進意欲が高い
- 仮説3a:結婚を考えていても、家事を夫と分担したいと思っていれば、昇進意欲が高い
- 仮説3b:子育てを考えていても、育児を夫と分担したいと思っていれば、昇進意欲が高い
- 仮説4c:勤務先の女性社員比率が高ければ、昇進意欲が高い
- 仮説4d:勤務先の女性管理職比率が高ければ、昇進意欲が高い
5.考察
今回の分析で支持された仮説のうち、とくに仮説4aと仮説4bにおいて、職場の環境が未婚女性社員の昇進意欲を高めることが分かりました。また、結婚や育児などのプライベートは未婚女性社員の昇進意欲に関係がないことも分かりました(仮説1a, 1c, 1d, 1e, 2a 3a, 3b)。さらに、組織内の女性社員比率や女性管理職比率が高くても、未婚女性社員の昇進意欲を高めることにはならいという結果になりました(仮説4c, 4d)。
したがって、未婚女性社員の昇進意欲を高めるためには、女性比率に注目した政策よりも、女性社員自身がキャリアアップするという意識を高められる職場の環境作りが重要であると考えられます。そして、そのような環境づくりにおいて、女性管理職によるサポートは欠かせないと言えます。女性管理職がが日ごろから関わっていくことで、身近なロールモデルになり、未婚の女性部下が昇進意欲を高められると考えられます。
本研究では、未婚女性社員の昇進意欲を高める要因をある程度特定することができました。しかし、本研究の調査では結婚願望の有無を聞いており、その人が考える結婚や育児の理想的なタイミングや理想とする結婚時の収入など、細かな要素を質問できていませんでした。今後の研究では、そのような詳細な結婚観や子育て観を分析に含めて、未婚女性社員の昇進意欲の要因を検証する必要があると考えます。