【ゼミ生研究報告】大学生の留学経験がCQに与える効果

小山ゼミ 2023年度3年チームA(加藤凪紗、下條由依、中東朔海、増田萌南、渡辺啓太、渡邊菜々子)

 

第13回 国際ビジネス研究インターカレッジ大会(IBインカレ2023) 日本語論文最優秀賞
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本稿はゼミ論文の概要を簡潔にまとめた「サマリー」です。

1.問題意識

 日本企業のグローバル化のために、グローバル人材の育成が喫緊の課題となっています。教育未来創造会議が2023年4月に取りまとめた「未来を創造する若者の留学促進イニシアティブ(第二次提言)」において、学生の海外派遣が推奨されています。しかし、私たちは、海外で過ごすだけでは必ずしもグローバル人材の育成につながらず、留学目的や現地での異文化接触度合いなど、留学の「質」に着目する必要があると考えました。

 そこで、本研究では、グローバル人材に必要な能力として、カルチュラル・インテリジェンス(CQ、異文化適応能力)に焦点を当て、留学によって日本人大学生のCQが向上する要因について分析しました。

2.仮説

リサーチクエスチョン:留学経験によって日本人学生のCQが向上する要因は何か。

 

先行研究から海外での現地の人との交流がCQを高めると想定されるため、本研究では留学先での「異文化接触」が重要な要因になると考えました。そこで、異文化接触を媒介変数として、以下の7つの仮説を立てました。

  • 仮説1 次の留学目的が異文化接触を媒介してCQを向上させる 
    • 仮説1-1 英語力向上目的 
    • 仮説1-2 就職活動に活かす目的 
    • 仮説1-3 人脈づくり目的 
    • 仮説1-4 異文化交流目的 
  • 仮説2 留学先の文化的距離が遠ければ異文化接触を媒介してCQを向上させる 
  • 仮説3 グローバルキャリア意識があれば異文化接触を媒介してCQを向上させる 
  • 仮説4 留学前の英語力が高ければ異文化接触を媒介してCQを向上させる 

3.調査計画

 調査方法は、アンケート調査とし、WEBリサーチ会社のモニター会員に回答してもらいました。調査対象者は、(1)両親が日本人で、自分も生まれてから日本で生活している、(2)現在、 大学生または大学院生である、(3)大学在学中に留学した経験がある、(4)留学期間が 2 週間以上 1 年以内であるという4つの条件に当てはまる人としました。156人から回答を得ました。

4.結果

 仮説検証のために分析を実施したところ、結果は以下の通りとなりました。

  • 仮説1 次の留学目的が異文化接触を媒介してCQを向上させる 
    • 仮説1-1 「英語力向上目的 」は支持されました
    • 仮説1-2 「就職活動に活かす目的 」は支持されませんでした。
    • 仮説1-3 「人脈づくり目的 」は支持されませんでした。
    • 仮説1-4 「異文化交流目的 」は一部支持されました
  • 仮説2 「留学先の文化的距離が遠ければ異文化接触を媒介してCQを向上させる 」は支持されませんでした。
  • 仮説3 「グローバルキャリア意識があれば異文化接触を媒介してCQを向上させる 」は支持されませんでした。
  • 仮説4 「留学前の英語力が高ければ異文化接触を媒介してCQを向上させる 」は支持されました

5.考察

 本研究の理論的貢献は、日本人大学生が留学経験でCQを向上させる要因を明らかにできた点です。本研究で明らかになったCQを向上させる主な要因は、留学先での「異文化接触」、留学目的が「語学力向上」や「異文化交流」であること、留学前の「英語力」という4つでした。

 また、海外の先行研究で明らかになっていた「文化的距離がある国で留学をすることで、CQが高まる」 ということは、本研究において日本人大学生を対象に分析した場合に支持されませんでした。このことから、必ずしも海外のCQに対する研究成果を日本にそのまま当てはめることはできず、日本の状況を前提とした研究をする意義を見出すことができたと考えられます。

 本研究の実践的意義は、日本人大学生のCQを向上させる要因が明確になったことで、グローバル人材の育成に活用できることです。具体的には、大学における留学前教育において、本研究で明らかになった4要因を強化するカリキュラムを実施する必要があると言えます。

 今後の研究課題としては、同じ対象者に「留学前」「留学中」「留学後」の3時点で調査を実施して、より精緻な分析をする必要があります。さらには、「就職後」にも調査をすることができれば、どのような留学経験がグローバル人材の育成につながるのかを直接的に分析することが可能となります。今後は、グローバル人材の育成という研究テーマにおいて、留学の「量」のみならず、留学の「質」にも着目することが重要であると言えます。