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【ゼミ生研究報告】大学生の国内外での経験とグローバル・リーダーシップ・コンピテンシーの向上

小山ゼミ 2020年度3年Aグループ (榎本実莉、堀篭由樹、長澤亮、李周姫)

 

本稿はゼミ論文の概要を簡潔にまとめた「サマリー」である。

1.問題意識

 近年、学生が卒業後にグローバル人材として活躍できるように多くの取り組みが行われています。例えば、留学の推進や外国語教育の強化などが挙げられます。しかし、2020年は新型コロナウイルスの感染拡大により、留学に行くことが難しくなってしまいました。留学ができなくなった今、グローバル人材になることはできるのでしょうか。日本国内の経験では、グローバル人材に必要な能力を向上させることはできないのでしょうか。

 

 このような問題意識から、どのような経験がグローバル人材としての能力向上につながるのかを明らかにしたいと考えて研究に取り組みました。

2.仮説

 本研究では、グローバル人材の能力に着目し、その能力を生み出す要因となった学生時代の経験を明らかにします。具体的には、「グローバル・リーダーシップ・コンピテンシー」という概念に着目しました。「グローバル・リーダーシップ・コンピテンシー」とは、グローバル・リーダーの能力です。Bird(2018)は過去の研究にもとづいて、グローバル・リーダーシップ・コンピテンシーを3カテゴリー15コンピテンシーにまとめました。

 

 そこで、本研究では「英語力」「日本国内での経験」「海外での経験」はグローバル・リーダーシップ・コンピテンシーの向上につながるのか、というリサーチクエスチョンをたてました。具体的には、次の3つの仮説を検証しました。

  • 仮説1 T O E I Cの点数が高いと、グローバル・リーダーシップ・コンピテンシーが高い
  • 仮説2 学生時代に日本国内で経験した項目の数値が高いと、グローバル・リーダーシップ・コンピテンシーが高い
  • 仮説3 学生時代に海外で経験した項目(期間・目的・学習内容・範囲)の数値が高いと、グローバル・リーダーシップ・コンピテンシーが高い

3.調査計画

 大学3年次以上の学生に、Googleフォームでアンケートに回答していただきました。回答者は114人でした。

 質問項目は、大学生・大学院生の属性(基本情報)、大学生活での経験について、TOEICの点数について、海外に行った経験、海外での経験、大学生・大学院生の行動・能力・経験について設定しました。

4.結果

仮説検証のために相関分析を実施したところ、結果は以下の通りとなりました。

  • 仮説1
    「TOEIC」の点数が高いと、グローバル・リーダーシップ・コンピテンシーが高い」という仮説はほとんど支持されないという結果が出た。

 

  • 仮説2
    「学生時代に日本国内で経験した項目が高いと、グローバル・リーダーシップ・コンピテンシーが高い」という仮説は部分的に支持されました。「グローバル・リーダーシップ・コンピテンシー」に有意な正の相関があった項目は、例えば以下の通りでした。
    • 「グループワークやチームワークでは自ら計画を立ててプロジェクトを推進するほうだ」
    • 「授業内でプレゼンテーションをすることが多い」
    • 「社会人や他大学の学生と積極的に知り合う努力をするほうだ」

 

  • 仮説3
    「学生時代に海外で経験した項目の数値が高いと、グローバル・リーダーシップ・コンピテンシーが高い」という仮説は、部分的に支持されました。「グローバル・リーダーシップ・コンピテンシー」に有意な正の相関があった項目は、例えば以下の通りでした。
    • 「日本とは違う現地の生活習慣を観察し、積極的に自分も実践するようにした。
    • 「現地の人に積極的に日本のことや日本文化を伝えた」
    • 「臆せずに現地の人とコミュニケーションを取ることができた」

5.考察

 最後に、調査結果について考察します。

 

仮説1「TOEICの点数が高いと、グローバル・リーダーシップ・コンピテンシーが高い」は支持されませんでした。つまり、TOEICの点数が高得点であっても、チームスキルや異文化理解などグローバル・リーダーシップ・コンピテンシーの能力が高まるとは限らないということです。

 

 仮説2「学生時代に日本国内で経験した項目の数値が高いと、グローバル・リーダーシップ・コンピテンシーが高い」は部分的に支持されました。つまり、学生時代に自ら率先してチームワークを形成し、且つチーム内の計画を自ら立案してプレゼンテーションを行うことにより、グローバル・リーダーシップ・コンピテンシーの能力が高まると分かりました。そして、様々な価値観を持った人とグループワークなどで関わることにより、柔軟な対応で人間関係を構築することができると考えられます。

 

 仮説3「学生時代に海外で経験した項目(期間・目的・学習内容・範囲)の数値が高いと、グローバル・リーダーシップ・コンピテンシーが高い」は部分的に支持されました。つまり、海外での経験において現地の生活習慣や文化を学ぶというような経験は受動的であり、より能動的に行動することでグローバル・リーダーシップ・コンピテンシーが高まることが示唆されました。さらに、海外で生活している人とのコミュニケーションを臆せずにすることはもちろん、母国とは異なる価値観を尊重して生活習慣などを自ら実践するチャレンジ精神もグローバル・リーダーシップ・コンピテンシーを高められる可能性がわかりました。

 

 本研究を通して、日本国内の経験でもグローバル・リーダーシップ・コンピテンシーが向上する可能性が示唆されました。しかし、今回の調査では学生のみを対象に実施しました。そこで、今後は実際にグローバル人材として日本企業・海外の企業で活躍されている方にインタビュー調査を行い、本研究で明らかとなった学生目線からのグローバル人材として必要な能力の捉え方との相違点があるのか、さらに研究を深める必要があると考えています。