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【ゼミ生研究報告】オンライン・コミュニケーションツールの活用とテレワークにおけるチームワーク  ―グループウェアとビデオカンファレンスの長所短所―

小山ゼミ 2020年度3年Bグループ (木藤真名、保科早希、村瀬友斗、髙橋和奏、小島奈々、屋島優奈)

 

本稿はゼミ論文の概要を簡潔にまとめた「サマリー」である。

1.問題意識

 現在、新型コロナウイルス感染症の影響を受けて、多くの企業がテレワークを実施しており、新しい働き方の選択肢が確立されつつあります。しかし、メンバーシップ型の日本企業では、仕事の境界線が薄く、チームで協力する働き方を重視します。そのため、日本企業ではテレワークの強みを発揮しにくいという問題があると考えました。

 

 慶應義塾大学・NIRA総合研究開発機構による「新型コロナウイルスの感染拡大がテレワークを活用した働き方、生活・意識などに及ぼす影響に関するアンケート調査」に関する報告書(※)によると、テレワークを実施した人の約8割は新型コロナウイルス感染症の収束後もテレワークの継続を希望しているということが分かっています。

 

 一方で、同調査によると、緊急事態において万全の状態が整っていない中で、初めてテレワークを実施した人の約20~30%は、通常時の勤務より生産性が低下していると感じているということが明らかになりました。今後もテレワークが緊急事態の対応策としてでは無く、多様な働き方のひとつとして確立するためには、テレワーク中の生産性を向上させることは不可欠です。

 

 以上の問題意識から、日本企業の強みであるチームワーク力を最大限に発揮し、テレワークでも生産性を向上する為に何が必要となるのかを明らかにしたいと考え、研究に取り組みました。

 

※慶應義塾大学経済学部大久保敏弘研究室、NIRA総合研究開発機構(2020)『「新型コロナウイルスの感染拡大がテレワークを活用した働き方、生活・意識などに及ぼす影響に関するアンケート調査」に関する報告書』
https://www.nira.or.jp/outgoing/report/entry/n200430_965.html

2.仮説

 本研究では、チームワークを重視する日本企業がテレワークで生産性を向上させるためには何が必要となるのかを明らかにします。まず、3人の社会人の方へインタビュー調査をしたところ、顔を合わせることが少ないテレワークにおいて、「コミュニケーションの減少により、チームの連携がうまくとれていない」という問題点に着目しました。

 

 このことから、本研究ののリサーチクエスチョンを「コミュニケーションツールを活用しているならば、チームワーク力が高まる」とし、以下の仮説を設定しました。

  • 仮説1:コミュニケーションツールを活用していれば、テレワーク中に周囲に頼れる
  • 仮説2:コミュニケーションツールを活用していれば、テレワーク中にチームの業務状況を把握できる
  • 仮説3:コミュニケーションツールを活用していれば、テレワーク中に目標を共有できる
  • 仮説4:コミュニケーションツールを活用していれば、孤独感を感じない

 コミュニケーションツールはそれぞれの目的にあった機能が備わっている為、それぞれを目的に合わせて活用することで、より効率的に組織のチームワーク力は高まると考えました。そこで、原因変数であるコミュニケーションツールの活用は、ツールの活用頻度や、グループウェア・ビデオカンファレンスの違いについて比較し検証しました。

3.調査計画

   調査対象者として、「従来は出勤していたが新型コロナウイルス感染症の影響でテレワークを初めて利用した20代から60代の社会人」を対象に、Googleフォームでアンケートを実施しました。

 回答者は86名であり、分析の対象に該当した方は64名でした。

4.結果

 相関分析の結果、以下の組み合わせで有意な正の相関がありました。

 

 まず、仮説1「コミュニケーションツールを活用していれば、テレワーク中に周囲に頼れる」は、10項目の有意な正の相関が見られました。

 例えば、「テレワーク中、部署の特定の人と連絡をとるときに、グループウェアのチャットを活用していた」と「テレワーク中、自分から部署内メンバーに相談や援助を求めることが出来ていた」には有意な正の相関が見られました(r(62)=.270, p<.05)。 また、「テレワーク中、定例会にビデオカンファレンスを活用していた」と「テレワーク中、自分から部署内メンバーに相談や援助を求められた」にも有意な正の相関が見られました(r(62)=.273, p<.05)。

 これらの結果から、テレワーク中の、グループウェア・ビデオカンファレンス両方で有意な相関が見られたことが明らかになり、仮説1は支持されました。

 

 次に、仮説2「コミュニケ―ションツールを活用していれば、テレワーク中にチームの業務状況を把握できる。」は、「テレワーク中、ビデオカンファレンスを活用」と、「テレワーク中、部署内メンバーの業務スケジュールをオンライン上で把握できる」には有意な正の相関が見られました(r(62)=.251, p<.05)。

 この結果から、仮説2はビデオカンファレンスでのみ有意な正の相関が見られ、仮説は部分的に支持されました。

 

  そして、仮説3「コミュニケーションツールを活用していれば、テレワーク中に目標を共有できる」は、「テレワーク中、部署の特定の人と連絡をとるときに、グループウェアのチャットを活用」と「テレワーク中、業務の目標を共有出来ていました」には有意な正の相関が見られました(r(62)=.254, p<.05)。

 この結果から、仮説3はグループウェアでのみ有意な正の相関が見られ、仮説は部分的に支持されました。

 

  最後に、仮説4「コミュニケーションツールを活用していれば、孤独感を感じない」では、相関分析の結果、「テレワーク中、定例会にビデオカンファレンスを活用」と「テレワーク中、自分はチームの一員であると感じる」には有意な正の相関が見られました(r(62)=.261, p<.05)。このことから、仮説4は部分的に支持されました。

 しかし、「テレワーク中、雑談にビデオカンファレンスを活用」と「テレワーク中、孤独を感じることがある」にも有意な正の相関が見られました(r(62)=.261, p<.05)。これは、一見すると仮説4を支持しない結果のように思えます。このことについては、考察で詳しく述べます。

5.考察

 本研究の結果から、意外にも、ビデオカンファレンスの限界と、グループウェアの強みが明らかにになりました。

 

 ビデオカンファレンスは、定期的に顔を合わせてコミュニケーションをとることで、一体感の醸成に繋がるということが明らかになりました。また、業務状況をリアルタイムで把握できることも強みであると言えます。

 

 しかし、様々な情報や目的の共有は、ビデオカンファレンスよりも文面で伝えるグループウェアが有効であるということが明らかになりました。これは、グループウェアでは業務の目標を文字で伝えるため、再確認も簡単に可能となり、正確に共有できることが理由であると考えました。また、同僚や上司に相談や援助を求める際も、グループウェアを活用することで自分から話しかけやすいということが分かりました。このことについて、グループウェアでは、受け手が自分の都合の良い時に返信を考えることができるという利点があると考えました。対面時は、個人的な相談は相手の都合や時間を気にする必要がありました。しかし、グループウェアの個人チャットを活用することでその必要が無くなり、相談や援助が求めやすくなると考えました。

 

 また仮説4について、コミュニケーションツールを活用しているとチームの一員であると感じられるが、同時に孤独感も感じてしまうという、矛盾しているようにも思える結果となりました。この結果について、今回は緊急事態宣言による急遽の対応であり、制度が整わない状況でテレワークが始まったことや、慣れないテレワークへのストレスや自粛期間など様々な要因が関連しているため、テレワークと孤独感は一概に結びつけるべきではないのかもしれません。

 

 これらのことから、ビデオカンファレンスの情報だけに頼ったコミュニケーションでは限界があり、グループウェアも活用する必要があるという結論を得ました。また、このことはテレワークだけではなく、対面時のコミュニケーションでも同じことが言えるかもしれません。対面だけのコミュニケーションにも同じく限界があると考えます。今後は、1つのツールに頼ることなく、それぞれの目的に応じてツールを使い分けることが求められると考えます。