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【ゼミ生研究報告】ワーキング・ファザーへの上司支援:世界で進む女性の社会進出のために

小山ゼミ 2023年度3年チームB(稲田裕輔、上野純玲、大久保凛星、鈴木朋実、廣木聖楠、細野玲美、森帆南)

 

第13回 国際ビジネス研究インターカレッジ大会(IBインカレ2023)提出論文IBインカレについてはこちら

 

本稿はゼミ論文の概要を簡潔にまとめた「サマリー」です。

1.問題意識

 日本において女性活躍に対する意識が向上し、また共働き世帯が増加しているにも関わらず、男性の育児及び家庭に費やす時間がほとんど変化していない現状があります。したがって、私たちは、日本企業における女性活躍のためには、ワーキングファザーのワーク・ライフ・バランスの実現が必要であると考えました。

 そこで、本研究ではワーキングファザーのワーク・ライフ・バランスの実現を、「ワーク・ファミリー・エンリッチメント(WFE)の向上」と「ワーク・ファミリー・コンフリクト(WFC)の低下」であると概念化しました。WFEとは「仕事と家庭の2つの役割について、一方の役割を担うことで得られた資源を有効活用することにより、他方の役割パフォーマンスを高めること」です。また、WFCとは「ある個人の仕事と家庭領域における役割要請がいくつかの観点で互いに両立しないような役割間葛藤形態」のことです。これまで、WFEとWFCは妻側のテーマと捉えられてきたため、日本ではワーキングファザーを対象としたWFCとWFEの研究が多くはありません。

 本研究では、ワーキングファザーのWFCを低下させ、WFEを向上させる要因は、本人の性役割意識と上司からの支援だと考えました。さらに、上司からの支援について、家庭支援と成長支援の2タイプを想定しました。

2.仮説

 本研究では、上司からの支援を家庭支援、成長支援の2つに分類しWFEとWFCに与える影響について検証するために、以下の8つの仮説を立てました。

  • 仮説1 ワーキングファザーの伝統的性役割意識は、WFEに負の影響を与える
  • 仮説2 上司からの家庭支援はWFEに正の影響を与える
  • 仮説3 上司からの成長支援はWFEに正の影響を与える
  • 仮説4 上司からの成長支援は、家庭支援がWFEに与える影響を調整する(正の調整効果)
  • 仮説5 ワーキングファザーの伝統的性役割意識は、WFCに正の影響を与える
  • 仮説6 上司からの家庭支援はWFCに負の影響を与える
  • 仮説7 上司からの成長支援はWFCに負の影響を与える
  • 仮説8 上司からの成長支援は、家庭支援がWFCに与える影響を調整する(正の調整効果)

3.調査計画

 調査方法は、アンケート調査とし、WEBリサーチ会社のモニター会員に回答してもらいました。調査対象者は、(1)男性、(2)正社員、(3)0歳〜6歳の子供がいる、という3つ条件にすべて当てはまる人としました。計200人からの回答を得て、すべての回答者を分析対象として扱うことができました。

4.結果

 仮説検証のために重回帰分析を実施したところ、結果は以下の通りとなりました。

  • 仮説1「ワーキングファザーの伝統的性役割意識は、WFEに負の影響を与える」は部分的に支持されました
  • 仮説2「上司からの家庭支援はWFEに正の影響を与える」は部分的に支持されました
  • 仮説3「上司からの成長支援はWFEに正の影響を与える」は支持されました
  • 仮説4「上司からの成長支援は、家庭支援がWFEに与える影響を調整する(正の調整効果)」は部分的に支持されました
  • 仮説5「ワーキングファザーの伝統的性役割意識は、WFCに正の影響を与える」は支持されました
  • 仮説6「上司からの家庭支援はWFCに負の影響を与える」は支持されませんでした。
  • 仮説7「上司からの成長支援はWFCに負の影響を与える」は支持されませんでした。
  • 仮説8「上司からの成長支援は、家庭支援がWFCに与える影響を調整する(正の調整効果)」は支持されませんでした。

5.考察

 第一に、ワーキングファザーのWFEを向上させる要因として、上司からの家庭支援と成長支援が重要であることが明らかになりました。さらに、WFEの一部の項目では、上司が家庭支援と成長支援の両方に取り組むことで効果が増大することも認められました。

 第二に、ワーキングファザーのWFCを低下させる要因は、ワーキングファザー本人が伝統的性役割意識を持たないことであることが明らかになりました。一方で、上司からの支援は効果がないという結果になりました。よって、WFCを低下させる要因としては、上司からの支援よりも、性役割意識という本人の価値観が重要であると考えられます。

 私たちは、ワーキングファザーのワーク・ライフ・バランスを実現することで、ワーキングマザーの過度な家事育児負担が軽減され、女性活躍を推進することにつながると考ています。