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【ゼミ生研究報告】Dual Corporate Language Strategy in Japanese MNCs: The Illusion of Linguistic Inclusion for English Speakers

小山ゼミ 2024年度3年チームA(秋山小菜美、飯塚大登、小出唯、後藤勇人、榊妃菜乃、仁林周大、羅桜潔)

第14回 国際ビジネス研究インターカレッジ大会(IBインカレ2024) 提出論文 (IBインカレについてはこちら)

 

本稿は、ゼミ論文(英文)の概要を簡潔にまとめた「サマリー」です。


Abstract

Research on International Human Resource Management (IHRM) and language strategies has primarily concentrated on Western cultural contexts, leaving a gap in empirical studies on Japanese multinational corporations (MNCs). This study explores the impact of the “dual corporate language strategy” employed by Japanese MNCs on linguistic inclusion. This dual-language approach may hinder communication between Japanese and foreign employees, as many Japanese workers are not fluent in English. Through interviews with three foreign employees who work in English at Japanese MNCs, this study examines how the division of corporate language affects linguistic inclusion. The findings reveal that the dual language strategy does not foster linguistic inclusion. The study emphasizes the need for a common organizational language to support inclusion and productivity. This paper contributes to the academic discourse on linguistic inclusion and offers practical implications for MNCs to adopt language strategies that enhance linguistic diversity and mutual understanding.


1.問題意識

 グローバル化が進む現代、企業において異なる文化的背景を持つ人々が協力して働くことが増えています。日本企業のなかにはは多様性促進などを理由に外国人社員を積極的に採用していることがあります。しかし、そうした企業では外国人社員に高い日本語能力の要求する傾向が高く、多様性促進に矛盾する対応になってしまっている可能性があります。

 そこで、私たちはこうした日本企業の言語戦略の実態に焦点を当て、社内言語が日本語と英語に二分化させる言語戦略を「Dual Corporate Language Strategy」と名付けました。そして、その言語戦略が本当に多様性促進において効果的であると言えるのか、日本企業で働く英語話者の外国人社員にインタビュー調査を実施しました。

2.リサーチクエスチョン

 日本企業の「Dual Corporate Language Strategy」は、言語の多様性(Variety)、分離(Separation)、格差(Disparity)にどのようなに影響を与えているのか。

 

 先行研究から、言語面でのインクルージョンのためには次の3つが必要であることが分かりました。1点目は、言語の高い多様性(Hhigh Variety)、つまり組織内で複数の言語が存在することを認めることです。2点目は、言語の低い分離(Low Separation)、つまり異なる言語話者どうしの間に心理的な壁がないことです。3点目は、言語の低い格差(Low Disparity)、つまり異なる言語話者どうしの間に格差をつくらないことです。本研究では、社内言語を日本語と英語に二分化させる言語戦略が言語の多様性・分離・格差にどのような影響を与えているのかを明らかにすることにしました。

3.調査計画

 実際に日本企業内で英語を使って働いている外国人社員3人に、英語でインタビュー調査を実施しました。インタビューは許可を得て録音して、匿名性に配慮したうえで逐語録を作成しました。逐語録からコーディングを実施し、最終的にストーリーラインを作成しました。

4.結果

 インタビュー調査の結果、日本企業の「Dual Corporate Language Strategy」は、低い多様性(Low Variety)、高い分離(High Separation)、高い格差(High Disparity)を引き起こしていることが分かりました。

5.考察

 本研究の理論的貢献は、日本企業で行われている言語の二分化戦略が、言語面のインクルージョンの促進に適した方法ではないことを明らかにした点です。その主な原因は、社内言語を二分化することで、組織内の共通語を失ってしまったことにあります。このことは、言語面のインクルージョンについての先行研究が主に西洋圏で取り組まれてきたために、見過ごされてきたことです。

 本研究の実践的貢献としては、異なる言語話者を採用する企業において言語的インクルージョンの促進するためには、企業共通語の設定することが必要不可欠であるということです。その企業共通語は日本語でも英語でも良いのですが、母語話者と非母語話者がお互いの言語能力の違いを受け入れて、相手が伝えたいことを理解しようと努力しながらコミュニケーションをとることが重要になります。

 本研究の限界は、調査対象者の少なさと外国人社員の視点のみで調査をした点です。今後の研究では、インタビュー調査対象者の人数を増やすとともに、外国人社員の他に、日本人社員へも調査をすることで、より詳細で精確な分析ができると考えます。